越田太郎丸インタビュー
越田太郎丸、野崎良太 Interview
聞き手・文/中原仁
野崎良太が主宰する音楽カルチャープロジェクト、Musilogue(ムジログ)のレーベルから、ギタリストの越田太郎丸(Taroma Koshida)がソロ・アルバム『Twenty Years』を発表した。
越田太郎丸は97年、ボサノヴァとクラブ・ミュージックを融合したユニット、Prismaticaでファースト・アルバムを発表。その後、Prismaticaのメンバーとして活動しながら、大勢の歌手とも共演し、ブラジル音楽をベースに置きながらもその枠内にとどまらないマルチな活躍を続けている。全編ギター・ソロによる『Twenty Years』のリリースにあたり、越田太郎丸とMusilogue代表の野崎良太に話を聞いた。
ーーそもそも太郎丸さんと野崎さんは、いつごろ、どんなきっかけで知り合ったのですか?
越田太郎丸(以下、越田)15年ぐらい前になりますね。葉加瀬太郎さんのツアーメンバーで、僕がギターを、野崎くんがキーボードを弾き、ツアー中に彼がJazztronikをやっていることを聞いて話してるうちに、僕がPrismaticaをやってことを言ったら、野崎くんが「え、やってたんですか!? 聴いてました」みたいな話になって。そのへんからですね。
ーーそれ以来、野崎さんが手がける、特にブラジル色が強いプロジェクトにファースト・コールで声がかかり、という流れですね。Musilogueからは今回のソロ・アルバムの前に去年、太郎丸さん名義の『TSUBASA』という、興味深いメンバー編成によるアルバムが出ました。全曲、越田さんのオリジナル曲で、野崎さんも参加されています。まずこのアルバムについて、レーベル代表の野崎さんからお話いただけますか。
野崎良太(以下、野崎)レーベルを作った時から心がけようと思っていたのは、何かをやっていて完成されてるバンドのアルバムを出すのではなく、僕が、なっちゃん(沖増菜摘/ヴァイオリン)と太郎丸さんと大槻KALTA(ドラムス)さんを合体させたらスゴく面白いんじゃないかと思って太郎丸さんに話して、このメンバーで作りました。それで去年『TSUBASA』のライヴをやった時に、2ステージ制にしてファースト・ステージは太郎丸さんの完全なソロ・ギターのライヴにしたんです。そうしたら、僕がやっているプロジェクトだからというので来てくれたお客さんもいたんですが、太郎丸さんがスゴいステージを披露したので、僕のところに「あの人のソロ・アルバムを出してほしい」という声がたくさん来たんですよ。それをそのまま太郎丸さんに伝えて、太郎丸さんも最初は「どうしようかな~」と言ってたんですけど(笑)。
太郎丸 「いいの?」みたいな感じで(笑)。
野崎 レコーディングにあたって最初、太郎丸さんはライヴとは変えようとしてたんです。でも僕は、太郎丸さんが弾きなれた、そのまんまをやってください、みんな聴きたいのはそれだって言って。
ーーこれまで20年余り、主に歌手との共演を通じて太郎丸さんの演奏を聴いてきましたが、今回あらためてこのソロ・アルバムを聴いて "ギターで歌う" ことを心がけているなあと。そこにすごく惹かれました。そのあたりは意識してではなく、自然に出てきたものですか?
越田 普段から「歌ごころを出すんだ」みたいな気持ちではやっていないですけれど、ただ、テクニカルだったり難しかったりといったことに単純に有り難みを見出さないんですよね。歌ものがそもそも好きだし、歌のバックでキラッと光る演奏をしているギタリストが好きだったりするので、そういうものが出てくるんでしょうかね。あと、インストゥルメンタルの音楽を聴いた人から「すごい」とか「上手かった」「圧倒された」みたいな感想はあまり求めてなくて、「楽しかった」とか「気持ちよかった」とか、そういうふうに演奏を聴いてほしいなあという気持ちはあります。
ーーブラジルの歌曲、エグベルト・ジスモンチのインスト曲、太郎丸さんのオリジナルなど幅広い選曲も聴きどころだと思います。これをやってみたい、という曲を選んだ感じですか?
越田 そうですね。あと、この中に入っているジスモンチやアルゼンチンのカチョ・ティラオの曲は、譜面が世の中に存在せず、全部、自分で耳コピして演奏したので、奏法とかポジションをどこで弾くかということも自分で想像しながらやっていったんですけど、それってけっこうな労力じゃないですか。それを厭わずに選んだということは、やはりその曲が好きで演奏したかった。それが大きかったんでしょうね。もちろんスタンダードの曲も入ってますけど、あえてスタンダードでも、バーデン・パウエルに直結するような曲はちょっと避けて。普段のライヴではそういう曲もやってるんですけど、作品にするときにはバーデン・パウエルっぽさというのは無くてもいいかなと、なんか思ったんですよね。
ーーガロート(注:ジョアン・ジルベルトにも影響を与えた50年代の作曲家/ギタリスト)の作品「Lamentos do Morro」を取り上げた着眼点が面白いと思いました。
越田 この曲がスゴい好きだったんです。マルコ・ペレイラがバンドと一緒に録音したヴァージョンがあるんですけど、それが好きで、とにかくあのデケデケデケデケ…という奏法を身に付けたいというのもありました。
ーーアルゼンチンのカチョ・ティラオの作品「Playas del Este」は、全体の中ではちょっと異色な選曲ですね。
越田 僕が学生の頃、とにかくプロになりたくて、ラテンと名のつくCDを買いまくっていた時期があって、ある日、千葉のディスクユニオンで「ラテン・ギター」と書いたCDがあって手に取ったら、それがカチョ・ティラオともう一人のギタリストの、それぞれのソロが入っているCDだったんですよ。タンゴっぽい曲が多かったんですが、その中でこの曲は爽やかなサンバっぽい感じで、あ、これは自分のフィーリングにぴったりくるなと思って耳コピしました。21、22歳ぐらいの時です。そのあと、特に人前で発表する気もなかったんですけど、何かの機会にギター・ソロで1曲弾いてほしいと言われて、この曲を弾いたらスゴい評判が良くて、それからずっと演奏するようになりました。当時はインターネットが無かったからカチョ・ティラオがどんな人かも知らなかったけれど、アストル・ピアソラのバンドでギターを弾いていた人だということがあとで判明しまして。僕は今、ピアソラの楽曲を演奏するバンドもやっているので、なんか偶然だなあと思って。
ーーこの曲とは長い歴史があったんですね。あと、アントニオ・カルロス・ジョビンのボサノヴァのスタンダード・ナンバーが3曲ありますが、もともとピアノで作曲した楽曲をアレンジしてギターで演奏するに際して、ギターで作曲した楽曲を演奏するのとは違ったベクトルが働く、ということはありますか?
越田 ちょっとジョビンからずれますが、エルメート・パスコアールの曲、たぶん彼は鍵盤で作っている曲が多いと思うんですが、聴いてギターで音を拾っていくと、拾いきれない部分がいっぱい出てくるんですよね。音楽理論の話になってしまいますが、ギターなら単純にG/Aと書くようなコードをエルメートが演奏すると、G/Aも鳴ってるんだけど、Aマイナーがあってからの、上にGが乗ってるみたいな形のもの、だけどギターではうまく押さえられないからそこまで表現できないことがけっこう多くて。あと、今みたいな分数コードに関しても、ピアノだと全部の鍵盤を押さえられるから、そこで限定されてしまうというのもあって、逆にギターはフワッとしているから、そこが良かったりするところがあって。
ーーつまり弾かずとも、その音が聴こえるような効果がギターにはある、ということですか?
越田 そうです。あと、聴こえてないからザックリした感じになる、というのもあったりして。ピアノ・オリエンテッドな曲であっても僕が自分でアレンジする場合には、ピアノで作られたんだろうなというところはスゴく意識しつつ、でもやっぱりギタリストが弾いてサウンドが気持ちいいところに持って行こうというふうに考える、そのほうが体に優しい、みたいなところは追っかけるようにしてます。だから原曲とキーを変えたり、開放弦をうまく使えるようにしたりとか、そういうことは工夫しますね。
ーー言葉では説明しづらい話をわかりやすくしていただき、ありがとうございます。最初の「うた」の話から始まって一貫しているのは、体の部分とか気持ち良さといった言葉がキーワードに出てきて、そこが太郎丸さんの音楽の根本にあって筋が通っていることに改めて気づき、共感しました。
ところでこの『Twenty Years』をはじめMusilogueからリリースされたCDは、イラストを使ったジャケットのアートワークも一貫していますね。CDを売りづらい時代になってきている中で、パッケージとして手元に置いておきたいと思わせてくれる。そのあたりは野崎さんの狙いでしょうか。
野崎 Musilogueの第1作が『Elephant and a barbar』という、サックスとベースとバレアリック・サウンド的な空間系ギターと、あと僕もちょっとピアノやエレピを弾いたりして、アンビエント・ジャズをやってみようと思って作ったアルバムでした。で、サックスの栗原くん(栗原健)がサックスのケースとかに絵を描いてたんで「栗原くん、ジャケットの絵、描いたら?」と言ったら出来上がってきたんですね。で、この人いろいろと絵が描けるんじゃないかなと思って描いてもらったら、それで開眼したのか次から次へと絵が出来てきて、それで絵もシリーズ化しようと思って、ここまで続けられてきました。こういうパッケージにすれば作品として持っててもらえるかなと思って、しかもこういう絵を描ける人が、たまたまミュージシャンの中にいたということが大きかったです。
越田 ジャケ買いしたくなりますよね。
野崎 Musilogueはいろんな側面を持ってますが、アルバム単位でのリリースを僕はアーティスト・シリーズと呼んでいて、音楽とジャケットでひとつのアート作品として成り立つようなものを、なるべく作っていきたいと思っています。このシリーズも今年の後半、あと6作品ぐらい出すつもりです。
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